英語科 辻 潔
This is a pen. That is a book.
This is Japan. That is America,
私が中学1年で英語を習ったとき、教科書に載っていた初めての英文です。こんな英文を本当にコミュニケーションで使うのか、との批判があり、「悪名高き」英文でした。今では、もっと使える英語表現、(Hello. I am Kumi…)に変わっています。
最近、バートランド・ラッセルに関する本を読みました。ラッセルは、20世紀を代表するイギリスの哲学者、論理学者で、一般的には、反戦活動で知られ、1950年にはノーベル文学賞を受賞しています。
彼は数学を論理学に基礎づけようとする試みから自らの哲学を築き始めました。ところが、その過程でパラドックス(矛盾)を発見してしまいます。(ラッセルのパラドックス)パラドックスが残ったままだと、理論は破綻してしまうので、なんとかパラドックスを避けようとします。
彼は、「タイプ理論」を打ち出します。例えば、チワワ、ビーグル、柴犬、ダックスフント、シベリアンハスキー、ブルドッグ、はみんな一つの種類(タイプ)であり、「犬」にまとめられます。チワワ、ビーグル、柴犬、などはタイプ1、それをまとめた「犬」はタイプ2、となります。タイプ2は他に、「猫」や「ねずみ」などとひとつのまとまり(タイプ3)になります。(自分自身を要素として含む集合は、一つ高いタイプなので、パラドックスは回避されるということです。)
ラッセルは、さらにタイプ理論を深めます。チワワだって、色々な種類がいる。沢口さん家のチワワ、横沢さん家のチワワ、あのチワワ、このチワワ。チワワがタイプ1だったら、「沢口さん家の」、「横沢さん家の」、「あの」、「この」はタイプ0になる。それを突き詰めていくと、あのチワワは「あれ」、このチワワは「これ」になり、「あれ」「これ」が究極のタイプなのではないか…。
ラッセルは、言葉が表現する世界と結びつくのは、「あれ」「これ」という指示詞、thatとthisを通してだと言います。なんと、thatとthisを知ってこそ、人は言葉の意味がわかると言うのです。
This is a pen. That is a book. で始まる教科書は、そんなラッセルの哲学理論に基づいていたのかもしれません。
参考文献:「ラッセルのパラドックス」 三浦俊彦 著 (岩波新書)
注:ラッセルのパラドックスとは、自分自身を要素として含まない集合全体の集合R = { x ∣ x ∉ x } の存在から矛盾が導かれるという、素朴集合論におけるパラドックスである。いまR ∈ R と仮定すると、R の定義よりR ∉ R となるから、これは不合理である。したがって(仮定無しで)R ∉ Rである。ところがRの定義よりR ∈ Rとなるから、やはり不合理である。(ウィキペディアより引用)
written by 英語科 辻