人は、人との交流の中で育つ。たくさんの出会いを経験しよう。
TMI総合法律事務所代表:
田中克郎弁護士
様々な分野の著名人をお迎えして、みなさんにメッセージを贈っていただく理事長奥田の対談シリーズ第5弾。
今回お話いただいたのは、日本の五大法律事務所の一角・TMI総合法律事務所を創立した田中克郎弁護士です。
今や500名を超える弁護士を抱える法律事務所のトップである田中氏。弁護士としてはもちろん、様々な企業や大学とも関わり、多彩な活躍をされていらっしゃいます。
そんな田中氏が、少年時代からどのような経験をして成長してきたのか、そして中高生時代に学ぶべきこととは何なのか、その教育論についてもお伺いしました。
志とは、人とともにみがくもの。
田中さんは現在、東京で弁護士事務所を開いておられますが、出身は鹿児島で学生時代は神戸で過ごされたそうですね。まずは学生時代についてお聞かせいただけますか。
私は中学2年生のとき、神戸高校へ進学するため、鹿児島から神戸に転校したんです。
しかし、高校で壁にぶつかるんですね。
私は、田舎では勉強ができる生徒でした。でも神戸高校には、もっと勉強のできる人がたくさんいたんです。
高校1年生の最初の試験で、私の結果はなんとビリから数えて30番目(笑)
生徒数が520人ぐらいいるうちの、ですよ。これは困ったなぁ……と。
私も高校時代を思い返すと、その気持ちはよくわかります。その後の高校生活は、どのように過ごされたのでしょうか?
初めは「どうしよう」と思ったんですが、私はクヨクヨするタイプではないんですね。
「それならそれで、これから頑張ればいいや」と思っていました。
しかし、努力してもあまり評価されないんですよ。同級生たちはずっと、素晴らしい成績を取り続けていましたし、差が縮まらない。
やはり難関大学への進学を目指す名門校だったので、どうしても一番の注目点は試験で高得点が取れるかどうかでした。それなりに頑張った高校時代でしたよ。
なるほど……。それにしても壁に当たってくじけず、努力し続ける姿勢が素晴らしいですね。
実は本校を新しく創ることになったとき、第一に考えたことは人間教育の面を前面に置いた学校づくりをしたい、ということでした。目指す進路は、多彩な道を提示していきたいと思っています。
4年制大学以外にも、専門学校への進学や就職の道も充実させよう、もしかしたら伝統芸能の職人さんへ弟子入りという道もあるかもしれない。
生徒自身も教員も、そうやって柔軟に未来の選択肢を考えていけるようにしたいな、と。
素晴らしいですね。すごく良いコンセプトだと思います。早い段階から具体的に将来像を考えることは、とても大事なことです。
はい。そしてその実現に向けた教育方針の一つとして、「人の価値がわかる人間を育てる」ことを軸にしたいと考えています。
自分の意志をもって進路を決めると同時に、他者が目指している夢・目標の意義を理解し、尊重できる人になってほしい。
時代の流れがどう変わろうと、自分の考えをきちんと持ち、何が必要かを考えて、自分の道を歩んでくれる、そんな子どもを育てたいと思っています。
志を大事にしていこう、ということでもありますね。
すごく良い教育方針だと思います。
私は、子どもの頃から「どうなりたいか」と考えることがすごく大事だと思っていて。そして、それを考えるためには色んな人と出会って、交流することがすごく重要になると考えているんですね。
私は鹿児島から神戸に出て、東京に行きました。そこで色んな人たちと出会いました。同級生だけでなく、先輩、先生ともね。その方々がやっぱり、教えてくださったんですよ。どういう志をもつと良いか、ということを。
なりたい職業への最短ルートというものは、確かにあります。でもそれだけでは得られない人とのつながりや、人としての面白さもあると思うんですね。
だから理事長がおっしゃったように、志っていうものを早い時期から教えてくれる存在と出会うことが大事なんじゃないかな、と。
本学理事長:奥田
すごく、心に響くお話です。志は、人との出会いの中でみがかれ、育っていくものでもありますよね。ぜひ、田中さんが出会った「志を育ててくれた」方々のお話をお聞かせいただけますか。
本当にたくさんの、恩師となる方と出会ってきましたよ。
例えば司法試験を受けたときは、大学院の先輩が徹夜して朝まで法律を教えてくれました。
そういう人に出会って、私があるんですね。
その先輩は、「私は学者として大学を支える。君は弁護士になって、実務家として大学を支えなさい」とおっしゃいました。
志っていうのは、自分だけのものじゃないんですね。やっぱり出会う人次第で見つかっていくものがあるんですよ。
「俺はこの道に進むから、おまえはそっちの道に進んだらどうだ?」、そういう関係が生まれるものといいますか。それは、自分一人じゃ出てこないものなんですよね。
自分を、そして社会を豊かにする感受性を。
今の世の中を見ていると、たまに不安になることがあるんです。
スマホの普及をはじめとして、様々な技術が発展していくのは喜ばしいのですが、何でも人と会わなくてもできるようになってしまうのではないかと。
人とのコミュニケーションを豊かにするには、田中さんは何が重要だと思いますか?
私は、「一緒に活動する場」を出来るだけ経験することが、将来のコミュニケーション力にすごく影響すると思っています。クラブや習い事などですね。
「ともに切磋琢磨する」経験も重要です。チームプレーのものだけではなくピアノなどの一人で活動するものでも、積極的にコンクールに挑戦するとか、一緒に練習を重ねる仲間がいるとか、そういった環境だとベストですね。
そういう場に身を置いていると、時には失敗したり、新しい仲間が増えたり、先輩・後輩の仲も築くことができたり、といった経験を積み重ねることができます。
これが、「人間性をみがく機会」になるんですよ。
私はそうやって、人とのつながりの中で多様な人を知り、人の気持ちがわかる子ども、そして大人になっていってほしいなと思っています。
そのためにはやっぱり、仲間の中で刺激し合う環境に身を置くことが大事じゃないかな、と思うんですね。
本当にそう思います。感受性豊かな人を育てたいと、私も思っています。
そうじゃないと人生面白くないなと。感受性豊かな人たちがたくさんいるからこそ、社会は面白いんじゃないかと。
私たちの学校は大阪にある学校ですが、未来の社会に絶対に必要になる人材を、この場所から育てていきたいんです。
私たちが思うところをしっかりと子どもたちに伝えて、子どもたちも自分の花を開かせる、そういう学校が各地域にないと、日本の社会は終わってしまうんじゃないかと考えています。ちょっと表現が大げさかもしれませんが。
TMI総合法律事務所代表:田中克郎弁護士
全然、大げさじゃないと思いますよ。教育する立場の人として、とても大事な考え方だと思います。
感受性豊かな人を育てたいというお言葉がありましたが、その点について私も大事だなと思います。私はよく子どもたちに、日記を付けることを勧めているんです。できれば毎日。
私は小学校の頃、朝は何時に起きて天気はどんな感じだった、今日はこれに感動した、といったものを書いていました。
日記をつけることによって、感受性が磨かれるんですよ。書くことによって文章力がつくし漢字も覚えられる。読書も好きになるし、色んなメリットがありますよね。それから物をよく考えるようになります。
とにかく「文章を書ける人に育てなさい」、私が保護者世代の方へ子育てアドバイスするときは、必ず言っていることなんですよ。
すごく共感できます。
今の時代、知識は調べれば何でも出てくるので、色んなことを知っているような気にはなるんですけれど、今お話しいただいたように、言葉の意味や奥深さ・自分がどんな言葉を発すればいいかということは、やっぱり根本に「感受性」がありますよね。
子どもの頃からどれだけ「言葉」に対して意識をもっているか、それはすごく大事。
例えば検索して10個の言葉が出てきたとき、どれを使うかというのは、最終的には自分で選択する必要がある。
文章力や読解力の育成については、本校では廊下の壁一面に本を並べた環境を整えています。紀伊國屋書店様にご協力いただいて、「本があったから今の人生がある」と言えるような人を育てたいと考えています。
本に触れるきっかけづくりというのは、学校で担う役割がすごく大きいと感じます。
神戸高校時代の話なんですが。神戸高校には月に一回、読後感想文を書くという取り組みがありました。一冊の本を読んで感想文を提出しなさい、と国語の先生方に言われるんですね。色んな本を読む必要がある環境だったんです。
それが単なる感想文じゃなくて、どれだけ長くなってもいいから書いてきなさいという課題でした。
逆に「原稿用紙1枚に収めなさい」というのもありました。文章を短くまとめる練習です。そうやって自在に文章の長さを調節する練習を、知らず知らずのうちにさせてもらっていたんですよね。
ただ本を読めと言われていたら、義務感だけで取り組んでいたと思いますが、「この本の中から選んで読んで書いてごらん」とか、すごくバリエーションもつけてくださって。
そういう変化をつけて教える・興味を持たせる方法って、模索すれば色んなものを編み出せそうです。
おっしゃる通りです。子どもたちのために、教え方に工夫を凝らすことはすごく重要ですから。それにしても、その国語の先生はすごく面白い方ですね。私たちもそういう指導をどんどん取り入れていきたいです。
保護者の方に、人間性をみがくためにこういった取り組みをします、と伝えたら、たぶん皆「その指導、すごく良い!」と感じると思うんです。
それに、指導している側もそういった取り組みは面白いものだと思いますしね。
意志をもって取り組めば、失敗は「面白い経験」に変わる。
TMI総合法律事務所代表 田中克郎弁護士と本学理事長:奥田
私は長年、事務所でたくさんの人を育ててきました。
そこで見えてきたことなんですが、アドバイスを伝えたとき、ターニングポイントは言われたことに食いつくかどうかなんですよね。ただ「言われた」だけで終わるのか、「やってみる」と行動を起こしたのか、これだけの差だったりします。
なるほど。そういう機会を逃さないかどうかは、分岐点になりますよね。
学校の先生の役割は、まさにそこ。知識を教えるばかりじゃなくて、アドバイスをしたうえでいかにやる気を起こさせるか、だと思います。
本当は受験勉強より大事なことって、あるんじゃないかと思うんです。
一人ひとりの良い部分を伸ばしてあげることとか。
多くの子どもたちが難関大学を目指して勉強に励む昨今ですが、大学ってせいぜい18~22歳までのことじゃないですか。それほど賞味期限が長いわけではありません。
問題は、人生100年時代で健康年齢は60~70歳ぐらいと言われている今、その期間をどれだけ面白い人生にできるか、ということなんです。
これを、学校の先生には教えてほしいんです。
その通りですね。将来の選択肢はもっと広くて、ずっと先まで続いている。しっかりとそのことを子どもたちに伝えていきたいです。
東大に行きたいんだったら、目指せばいい。頑張れよ!と思います。
でもあんまり無理して気張らなくていいよ、他のことだってあるんだよ、という気持ちです。
これは私が実際に見た例なんですが。東大に行って、何をするの?と聞いたら、「だいたいの人は司法試験を受けると聞いたから受ける」と。そして合格した。それからどうするの?と聞いたら、「だいたいの人は弁護士になるらしいから、事務所に入る」と。
しかし、事務所に入ったところから、そういった人は迷い出すんですよ。
「自分は弁護士に向いていないんじゃないか」とかね。
「こういう道に進もう、その先で、こういう風になろう」というものが無いんです。
でも司法試験にも合格しているわけですから、すごく賢い人なんですよ。だけど悩んでしまって、弁護士を辞めていく人がいるんです。
それは……。本人にとっても損だし、社会にとってもすごい損失ですよね。
東大に行くというのは一つの選択肢であって、目的ではないんです。だから、やりたいと思うことをもって、幅のある生き方を考えてほしい。
だってノーベル賞を受賞した方々だって、ほとんどそうでしょう?小さい頃から好奇心旺盛で、大人になってからもずっと「好きだ」という気持ちを追いかけ続けた人が多いじゃないですか。
その通りです。まずは自分が何をしたいか、そこからどういう道に進みたいかを考えていく必要がありますよね。
そのためにも、興味のあることや自分の意志をはっきりとさせておくことが大事です。
子どもはみんなもっているはずなんですよ、そういうものを。
だから学校で「この子はどんな子なのか?」という視点をもってくだされば、面白い子が登場するんじゃないかと思いますね。
教育者としてしっかりと、子どもたちの興味・才能を引き出していきたいと思います。
学校指導要領が新しくなった昨今は、私たち教員の頑張りどころと言いますか、力が試されているタイミングでもありますからね。
先生方の自由裁量といいますか、「あなたはどんな子を育てたいですか?」ということですよね。子どもがどんな人になりたいか、先生がどんな子を育てたいか、といったところが、私は大事だと思っています。
そうですよね。もっと一人ひとりの子と向き合うことが必要だと感じます。
私が日本の教育の良くないと思っているところは、「失敗したら終わり」みたいな風潮があることです。
これはフィンランドに教育について勉強をしに行ったときに知ったことなんですが、フィンランドでは学校に8年でも9年でも通っていいんです。
どの道に進んでも、失敗したら学校に戻ってきたらいいって。ずっと社会が子どもたちを包含してくれている。
経済的には日本の方が優れているのかもしれないですけど、人に対する考え方が、北欧の方が進んでいるなと思うんです。
日本も、昔はそうだったと思いますよ。
だって昔の偉人たちって、経歴を見るとものすごいたくさん失敗してたりしますよね。
でも失敗している方が、人間性が絶対にみがかれるんですよ。
だから、悩むな・クヨクヨするな、って思うんです。むしろ面白い経験ができたと切り替えていけ、と。「失敗を恐れるな」「失敗することが成功のもと」なんですよ。
その通りですよね。失敗しまくったから、今があるものです。
チャレンジしなきゃ失敗しないわけですから、どんどん失敗しろって伝えたいです。
学校は失敗を受け入れられる場所ですよね。だから、子どものうちはいっぱいチャレンジして、失敗を経験して、人としてみがきをかけてほしいものです。
もくじ
- 対談9
株式会社プリローダ/日本農業株式会社:大西千晶氏
心で感じ、行動しよう。動かなければ何も生み出せないから。 - 対談8
外交官:吉川元偉氏
語学を学べば世界が広がる。好きなことをモチベーションに学んでほしい。 - 対談7
作曲家:新実徳英氏
曲がりくねって進んでも、好きだから努力できる。 - 対談6
アサヒビール株式会社
専務取締役マーケティング本部長:
松山 一雄氏
「点」はいつか、きっとつながる。 - 対談5
TMI総合法律事務所代表:田中 克郎弁護士
人は、人との交流の中で育つ。たくさんの出会いを経験しよう。 - 対談4
モンベルグループ代表・登山家:辰野 勇氏
自分の「好き」へ進み続けること、それは未来の糧となる。 - 対談3
名古屋大学教授 天野 浩氏
(2014年ノーベル物理学賞受賞)
未来に向かう子どもたちへのメッセージ、やりたいことに挑戦する道を進もう。 - 対談2
森永製菓株式会社 取締役常務執行役員:宮井真千子氏
次の世代の子どもたちに伝えたい、好奇心と挑戦が未来を拓く。 - 対談1
株式会社パソナグループ代表:南部靖之氏
少子化時代の未来を創る子どもたちに贈る人生を輝かせる言葉。