少子化時代の未来を創る子どもたちに贈る人生を輝かせる言葉。
株式会社パソナグループ代表:
南部靖之氏
1929年に大阪府にて設立し、幼稚園から中学校、高等学校、大学まで擁する大阪国際学園。
少子化が進む中、次代を見据え、学園改革を推進している。これからの社会を創っていく人材を育てるために、どのような教育が求められているのか。奥田吾朗理事長が、「人を活かす」事業を中核に据える、総合人材サービス大手・株式会社パソナグループを率いる南部靖之グループ代表と、次代を創る人材育成・教育について語り合った。
制作/東洋経済企画広告制作チーム
「人間力」を培い社会を変える人材を育てる。
パソナグループ代表:南部氏
私はかねて「人を育てること」に対する南部さんの考え方や取り組みに感銘を受けてきました。例えば貴社では現在、ユニークな新入社員研修を行っておられると伺いました。
当社が現在本社機能の移転を進めている淡路島で、数日間にわたる合宿研修を行っています。2021年度は、4月に入社した約120名全員を淡路島で研修。研修プログラムには、当社の事業や仕事のノウハウを学ぶだけでなく、額に汗して畑を耕す農業に取り組んだり、和太鼓やタップダンスを習うことなどが含まれているのが特徴です。私も毎年、新入社員と一緒に体を動かしています。
ほかではあまり見ない社員研修ですね。仕事に直結しないことを学ぶのには、どのような狙いがあるのでしょうか。
目的は、パソナグループ内で力を発揮するだけにとどまらず、社会や国に貢献できる人材を育てることにあります。そのために専門知識やスキル以上に重要なのは、「人間力」だと私は考えています。例えば人と人、心と心を響き合わせる力、「思いやり」もその1つです。テクノロジーは時代とともに変化します。今ある技術はやがて新しいものに取って代わられるでしょう。必要なのは、どんな時代にあってもそこに対応し、イノベーションを起こせる力です。10年後、20年後、社内での実績ではなく「社会をいかに変えたか」を語れる社員を育てたい。そう願っています。
私たちが目指すのも、まさにそうした教育です。知識の習得も重要ですが、それ以上に、受験に関係のない学びや友達との関わりを通じて思いやりの心や豊かな人間性を養う教育が必要だと考えています。
「人を活かす」ことを事業とする当社にとっても教育は根幹といえるものです。当社が目指すのは、「ベストセラー」ではなく、持続的に成長し続ける「ロングセラー」。目先の利益だけを追い求めては、50年、100年存続していくことはできません。社会から必要とされ続ける上で、「人」こそが新しい道を切り開いていけると考えています。
葛藤や挫折を経験し価値観の多様性と生き方を学んだ
人口減少が進む中にあって、物質的な豊かさだけを追求するのではなく、培ってきた伝統や文化の重要性も理解し、真に豊かな社会を創っていくことのできる人材が必要になります。そのためには受験に関係ある知識を身に着ける教育だけでは不十分です。子どもたちが夢を育み、友達との関わりの中で互いに高め合っていける教育が必要だと私は考えています。南部さんは、子ども時代、青春時代にどのような環境で何を学び、パソナグループという大企業を育てるまでになられたのか、ぜひ聞かせてください。
私が夢を描くことができたのは、両親から価値観の多様性の大切さを教わり、自信を与えてもらったからです。私は3人兄弟の末っ子で、小さい頃から絵を描くのが好きでした。そんな私を母親は「算数で100点を取るのも、絵が上手なのも同じすばらしい才能だ」と褒めてくれました。勉強ではかなわなくても、ほかの人に負けないものがあると自信を持つことができたのは、母のおかげです。また父親からも人生を変えるような言葉を数多くかけてもらいました。高校時代、数学の試験結果が悪くて「恥ずかしい」と言った時、「そんなことを恥じる必要はない。人に迷惑をかけたときに己を恥じなさい」と言われたこともその1つ。学校の成績だけに価値を置かない父親の言葉に勇気づけられました。両親には、大きな夢を描く勇気と、生き方、生きるすべを教わったと思っています。もう1つ、学校の勉強以外の学びを得た大切な場所があります。それは、小学校6年生から高校まで毎日のように通った禅宗の寺院です。毎朝5時に起きて寺に寝泊まりする方々に朝がゆを作り、境内を掃除してから学校へ向かうのが当時の日課。ご住職は、子どもにも理解できる例え話で禅の心を教えてくださいました。そうした生活の中で学んだことは、現在も行動するうえで欠かせない指針になっています。
最も感受性の高い10代に、さまざまな人や経験から影響を受けながら自ら葛藤し、いかに生きるかを学んだのですね。
そうした経験を経て、会社を興したのは大学4年生の時です。きっかけは就職がなかなか決まらなかったことでした。その時周囲を見て、私以上に女子学生の就職が厳しいことに気づきました。たとえ就職できても、結婚や出産で一度仕事を離れると再就職は難しく、希望に沿わないパートやアルバイトに就くしかありません。こうした現状を変え、ライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる仕組みを作れないか。そう思い立ち、父親に相談すると、「自分でやったらどうか」と、それも「ボランティアなどではなく会社を興し、事業化しなさい」と助言されました。起業したのは、卒業を1カ月後に控えた2月。「学生だから」「経営ノウハウを知らないから」と、できない理由を並べて躊躇していた私の背中を押してくれたのも、父親でした。それから現在まで、「社会の問題点を解決する」ことを企業理念に掲げ、事業を進めてきました。
お話を伺って、南部さんが決して特異な才能を持っていたからこれほどの大企業を育て上げられたわけではないことがよくわかりました。現代の日本の学校教育では、南部さんが体験を通じて培われた、人生を生きる上での「芯」となるものを鍛える教育が不足していると危惧しています。本学園ではそれを確かに育みたいと思っています。
リーダーの描く夢、志が企業・学校の成長を決める
本学理事長:奥田
父親が55歳で急逝し、幼稚園から大学院まである学園の理事長を引き継いだのは、私が28歳の時でした。父親が遺してくれたのは、ただ1つ「子どもを大事に」という言葉だけです。以来、子どもの未来のことだけを思い、多くの方の助けを借りながら、少しずつですが理想の教育を目指してきました。そうした自分自身の経験からも、社会において大切なのは、夢や志を共有できる友達であり、思いやりの心であると実感し、何よりそれを子どもたちに教えたいと思っています。
同感です。私は常々会社のリーダーは、社員がつくってくれるものだと考えています。どんな事業も、社員がいなければ実行することはできません。リーダーの役割は、「夢」や「志」という名の帆を高く掲げること。「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」という言葉がありますが、企業も学校もリーダーが描いた夢の大きさ、志の高さでその成長が決まると私は思っています。だからこそリーダーが誰よりも大きな夢、高い志を抱きたいものです。
新中学校・高等学校で明確化「人間をみがく」教育
大阪国際学園は今、新しいチャレンジを進めています。1大学2キャンパス、1短大、2高等学校、1中学校、1幼稚園と留学生別科を擁してきた教育体制のスリム化を断行。その一環として、大阪国際滝井高等学校と大阪国際大和田中学校高等学校を統合し、22年4月、新たに大阪国際中学校高等学校を開校します。新校では、南部さんがさまざまな方の励ましや協力を支えに今日まで歩んでこられたように、まさに「人と『生きる力』を育む」ことを何より大切にし、「人間教育」をこれまで以上に明確に打ち出していきます。重視するのは「人間をみがく」「国際感覚をみがく」「創造力・表現力をみがく」「個を支える」こと。「国際バカロレアコース」を新設するのもその一つです。単に英語力を養うのではなく、世界の人々と協力しながらよりよい社会を築くことに貢献できる力、高い人間力を養うことに重きを置く「国際バカロレア」の精神を体現するのがこのコースです。そのほか、国立大学進学を目指すコース、看護・医療や幼児保育の専門家を目指すコースなど各コースの生徒が学び合い、多様な価値観に触れる機会を豊富につくる予定です。成績だけでなく、あがきながら自分の夢を見つけた生徒を評価できる仕組みを作りたいと考えています。
すばらしいと思います。私が大学を卒業する時、父親が贈ってくれた言葉が2つあります。1つは、「英雄は若者から生まれる」というナポレオンの言葉です。若者には誰しも英雄になるチャンスがある。そういうメッセージだと私は解釈しています。もう1つの言葉は、「土薄き石地かな」です。土の少ない石ばかりの地面から芽を出すのは力がいるけれど、それだけ強く育つ。だから若い時には重荷を背負い、苦労しなさいという意味です。この言葉があったから、苦しいことも乗り越え、今日まで踏ん張ってくることができました。私からも次代を継ぐ若い人たちにこの2つの言葉を贈りたいですね。
私は本学園の中学、高校、大学を卒業する生徒・学生に毎年こう言葉を贈っています。「君たちには社会を変える力がある。これから失敗や挫折を経験しながらその力を育み、未来を創っていってほしい」と。子どもたちが夢を持ち、時につまずきながら強く、たくましく育っていけば、日本の未来は明るいと信じています。
もくじ
- 対談9
株式会社プリローダ/日本農業株式会社:大西千晶氏
心で感じ、行動しよう。動かなければ何も生み出せないから。 - 対談8
外交官:吉川元偉氏
語学を学べば世界が広がる。好きなことをモチベーションに学んでほしい。 - 対談7
作曲家:新実徳英氏
曲がりくねって進んでも、好きだから努力できる。 - 対談6
アサヒビール株式会社
専務取締役マーケティング本部長:
松山 一雄氏
「点」はいつか、きっとつながる。 - 対談5
TMI総合法律事務所代表:田中 克郎弁護士
人は、人との交流の中で育つ。たくさんの出会いを経験しよう。 - 対談4
モンベルグループ代表・登山家:辰野 勇氏
自分の「好き」へ進み続けること、それは未来の糧となる。 - 対談3
名古屋大学教授 天野 浩氏
(2014年ノーベル物理学賞受賞)
未来に向かう子どもたちへのメッセージ、やりたいことに挑戦する道を進もう。 - 対談2
森永製菓株式会社 取締役常務執行役員:宮井真千子氏
次の世代の子どもたちに伝えたい、好奇心と挑戦が未来を拓く。 - 対談1
株式会社パソナグループ代表:南部靖之氏
少子化時代の未来を創る子どもたちに贈る人生を輝かせる言葉。